2013年12月31日

ペンギンの散歩/蘋如。君はいったい文隆のことをどう思っていたの?

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東京に帰る前日には札幌に泊まった。そして翌日、旭山動物園に寄ってから、旭川空港発羽田行きに乗る予定を組んだ。

しかし、帰郷ラッシュのためだろう、札幌から旭川への鉄道が予約できない。3歳時は「ペンギンさん電車(旭山動物園号のこと)に乗りた〜い」と騒いだが、どうにもならない。

しょうがないのでレンタカーを借りた。朝に札幌のホテルのすぐそばで借りだし、旭川空港で返却する。

日本全国で報道されていたようだけれども、ここ数日北海道は猛吹雪に見舞われた。運転はしんどかった。高速道路も路面は真っ白で、吹雪で前方がほとんど見えないこともあった。疲れた。

旭山動物園は、評判どおり、おもしろかった。見せ方に工夫がなされており、動物たちの活き活きとした姿を見られるし、各展示施設が隣接しているので、歩き疲れないのもよかった。

写真は日に2度行われるペンギンの散歩。

きゃわいい〜。


「上海エイレーネー」(1月18日刊行予定)を書いている時、主人公・靄若のモデルである鄭蘋如に「あぁ。できることなら直接聞いてみたい」と思ったことが何度もあった。

例えば、「君はいったい文隆(近衛文麿の長男)のことをどう思っていたの?」と。

※以下、ネタバレ注意!※

小竹文夫東亜同文書院大学教授は、「ある時、中国の高官の令嬢で、日本婦人を母とする女性が、それも然るべき筋からの紹介で文隆さんに交際を求め、大学に訪ねて来たことがあった」、「その後学校の運動会の折や、その後二三回文隆さんを訪ねてきたようである」と回想している(『近衛文隆追悼集』(近衛正子他編/陽明文庫))。

ということは、蘋如と文隆とが面識があったことについては間違いがないようだ。

中国では、蘋如は特務工作員として文隆に接近したのであり、そこに恋愛感情はなかったと一般的に考えられている。その根拠は、蘋如には中国空軍に恋人、王漢勲がいたということ。漢勲は蘋如に手紙で「香港で結婚式を挙げよう」と書き送っており、結婚の約束までした相手がいるのに、他の男とうつつを抜かすわけはない、というわけだ。

ただ、近衛忠大氏によれば、文隆は妹の夫の細川護貞(忠大氏の祖父)に宛てて「学校の運動会の折に一支那美人を招待して、いとも懇ろなところをみせつけてやった。今果たして大問題になって、彼女の身元調査等やっとるらしい」と書き送っている(『近衛家の太平洋戦争』(近衛忠大/NHK出版))。

その身元調査を担ったであろう上海憲兵隊の林秀澄特高課長は、蘋如と文隆の関係を問われて「これはあまり言いたくありませんけれども、今の鄭蘋如と熱くなってしまいまして」と語っている(『林秀澄氏談話速記録』日本近代史料研究会)。

さらに、『木戸幸一日記』(木戸幸一/東京大学出版会)には「有田外相より文隆君の行動につき上海よりの来電につき話あり。一、仏租界居住高恩伯(重慶と連絡あるものと認めらる)方に出入りし、美人の娘と交際す。文隆君は常に之を連れ歩きたる様子」と記されている。

どうやら蘋如と文隆は相当に親しい関係にあり、はたからは恋人同士にしか見えたったようだ。

蘋如と文隆の間に身体の関係があったかどうかは、興味はあるけれども、この際重要ではない。知りたいのは、蘋如が文隆のことをどう思っていたのか、ということ。

『美貌のスパイ鄭蘋如』(柳沢隆行/光人社)を著した柳沢隆行氏は、鄭家の門限が厳しかったことや、文隆が帰国の際に蘋如にプレゼントを人を介してわたしてきたことなどを根拠として二人の恋を否定しているが、門限が若い二人の恋の盛りあがりを、促進はできても、抑えることなどできないし、プレゼントについては、文隆は日本に一時帰国した際に軟禁され上海に戻れなくなったのだから、直接わたしたくてもわたせなかったと考えるのが無難なように思う。

中国では蘋如は抗日戦争のヒロインにまつりあげられている。その彼女が敵である日本人と恋愛するというのでは具合も悪かろう。中国において二人の恋が否定されなければならない事情があることは理解できる。

しかしながら、王漢勲からプロポーズされていたのだとしても、実際に結婚には至っていないのだから、蘋如のほうも結婚したいと思っていたとは言い切れない。日中戦争開戦前に漢勲と相思相愛の仲だったのは確かなようだが、年単位の長い時間が過ぎれば、人の気持ちは多かれ少なかれうつろうものだ。それに漢勲は日本軍との戦いにあけくれ彼女のそばにいない。遠距離恋愛がいかに儚いものかは、それを経験した人ならだれでも知っている。祖国のために戦う恋人を待ち続けているというのはいかにも美しいけれども、それは男性側の勝手な願望かもしれない。人の心は単純ではない。

文隆は、元首相の息子とはいえ国家機密などなにももっていなかったはずだ。そんな彼は特務工作のターゲットとしてはさして重要ではなかったと思う。文隆は、家系は華やかで、カネをもっており、スポーツ万能。イケメンかつ包容力を感じさせる恰幅。豪放磊落で男にも大いにモテる。そのうえ蘋如とほぼ同年齢なのだ。仮に特務工作のために接近したのだとしても、恋愛感情が湧き上がるのは自然なことのように思えるのだが。

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posted by osono at 10:50 | Comment(0) | 著作