2016年06月04日

南京美麗宮の夕陽とリース=ロス・蒋介石会談

P5250286.JPG1935年中国幣制改革をサポートするためにロンドンよりやってきた英大蔵省のフレデリック・リース=ロスが自叙伝“MONEY TALKS”のなかで、仕事を終え中国を離れる直前に蒋介石と会ったときのことを次のように書いている。

I found him sitting on a very ordinary kitchen chair, in the garden of his villa at Nanking, watching the sun set, completely relaxed. After greeting me, we went inside......


P5250293.JPGこの部分を読んで、いま書いている長編のなかでこのシーンを再現したく思い、さっそく南京の蒋介石官邸「美齢宮」へ行ってみた。

紫金山の麓にある美齢宮は緑に覆われており、美麗がプライベートで使いまくっただろうビュイック(上から一番目の写真)や、夫婦の寝室(上から二番目の写真)、数々の要人との会見を行ったという応接室(上から三番目の写真)などがあり、大変興味深かったのだけど、一通り見終わったあと「あれ?妙だぞ」と思った。


P5250287.JPG建物二階の南側に接客用のダイニング・ルームがあって、その南側に大きなバルコニーがあるのだけど、そこに椅子を置いてのんびりと夕陽を眺めている姿を想像することができないのだ。このリース=ロスと蒋介石との会見は1936年6月上旬で、太陽が一年で最も北寄りに沈む頃だ。すると、バルコニーの西側の角で乗り出すようにしないと建物に隠れて日没が見えないはずなのだ。おかしいぞ。

外から建物の西側部分を見てみると、三階に小さめのバルコニーがあるようだ。「なるほど。あそこかぁ」と思って三階に戻ってみたのだけれども、バルコニーにつながっている部屋は公開されておらず、バルコニーの様子を確認することはできなかった。

P5250301.JPGそれにしても妙なのは、三階は蒋介石、宋美齢のプライベートなエリアであるようなのに、来客を三階のバルコニーに招き入れたようだということ。三階の西向きのバルコニーからは紫金山の緑の中に沈んでいく美しい夕陽をバッチリ見られただろうし、リース=ロスが「全く普通のキッチンの椅子に座っていた」と表現しておりプライベートのキッチンから椅子を引っ張り出してきたと思われることから、上記のシーンが三階バルコニーであったことは間違いなさそうなのだけれども。

そんなことを考えつつ一階に降りて建物の全体図(上から四番目の写真)を見ると、三階の開放されていない部屋にはどうやら応接セットが置かれていたようだ。

蒋介石は、来客を寝室もあるプライベートなエリアに入れて、美しい夕陽を見せ、そのあとにバルコニーのすぐ横の応接セットで会見をすることにより、来客の心をがっしり掴む演出をしていたのかもしれない、と想像を膨らませてみた。

image.jpegところで美齢宮、空から見た姿がすごい。上から五番目の写真は古い空撮写真らしい(色は着色したのかな)。緑の屋根の美齢宮と道路と街路樹とを空からみると、緑の宝石を飾ったネックレスのように見える(ネットで「美齢宮」で画像検索すると街路樹だけが黄色くなったネックレスとしかいいようにない写真が載っており、思わず「すげぇ」と言いたくなる)。たまたまなんじゃないの、とも思うけれども、美齢宮が竣工した1934年といえば中国空軍の黎明期であり、宋美齢は1936年に中国空軍の責任者に就任していることから、美齢は飛行機好きで、そんな美齢のために蒋介石が空から見てみなければわからない仕掛けをした、ということは十分に考えられる。

(ちなみに冒頭のMONEY TALKSの一節。そのあと、美齢の通訳がうさんくさいという話につながっていく)


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posted by osono at 17:15 | 著作