中央を貫く道路は静安路(現南京西路)。左側は上海競馬場。「GRAND」の文字は大光明電影院(グランドシアター)。
この場所は拙著「カレンシー・ウォー」で出てくる。
主人公柳場賢がカジノでアメリカ人の中華民国金融顧問A.N.ヤングにボロ負けして借金をつくってしまったシーン。支払うカネが足りないと言う柳場に対してA.N.ヤングが言った。
「その差額分として、ちょっとこれからあるところに付き合ってもらえないか」
「あるところ、ってどこだ」
「それを訊かずについてくるというのも利子分ということで」
わけのわからない提案をしてくる男の言葉の意味を考えるのが次第に面倒になってきた。
「いいだろう。好きにしろ」
柳場はそう言って、先に出口に向かって歩き始めた。
男の黒塗りのパッカードは静安寺(バブリング・ウェル)路(現南京西路)を西に向かった。
柳場は車窓をうしろへ流れていく商店のショウ・ウインドウの灯りを見ていた。
車に乗ってから男と全く言葉を交わしていない。
社交的ではない柳場でも、素性を全く知らない相手と車の後部座席で並んでいることには少々気まずさを感じる。
柳場は男に尋ねた。
「アンタ。アメリカ人なんだろ」
男は自分の横の窓のほうを見たままで何も答えない。
「なんだよ。愛想のない男だな。せめて名前ぐらい言ったらどうなんだい」
やはり男は黙ったままである。男の視線の先は競馬場の敷地である。柳場の側とは違って光がなく、見つめるべきものは何もない。
「やれやれ。最悪の夜だな」
柳場はそう呟いて視線を車窓に戻した。
静安寺路が緩やかに右に曲がってすぐのところで車は停止した。
「なんだよ。ここかよ」
車を降りると、目の前には仙楽斯(シロス)のきらびやかな光があった。仙楽斯は上海の不動産王、エリス・ヴィクター・サッスーンの資金で開業した上海一の高級ナイト・クラブである。
つまり柳場はA.N.ヤングの車に乗せられて写真の道を手前から奥に向かって進んだ。そして、写真の奥の方で右に折れたところで車を降りた(残念ながらこの写真には大光明電影院に隠れてシロスは写っていない)。
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