財政部2階の明かりの消された応接室の端のドアが開き、黒いシルクの服をまとった、小柄で、はにかみ気味の中国女性が入ってきた。彼女の繊細で、か細い手のひとつにはレースのハンカチーフが、もうひとつの手には宋子文からの紹介状が握られている。彼女が声を発した時、私は飛び上がりそうになった。やわらかく、やさしく、思いのほかに甘い声だった。直射日光を避けるためにブラインドが閉められており、彼女がすぐそばに近づいてくるまで、その姿はおぼろげにしか見えなかった。彼女を見て私は当惑し、いったいこの女性は誰なのだろう、と思った。孫文夫人には私が知らない娘がいたのだろうか?この優雅に現れた、壊れそうで、臆病そうな女性が、世界で最も名高い女性革命家だとはなかなか信じることができなかった。
この扉から慶齢が現れたのだろう。
扉の向こうには廊下を隔てて慶齢の居室があるVincent Sheean 「Personal History」P225〜P226より
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慶齢の寝室 |
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書斎 |
Sheeanが慶齢に会った財政部の建物は現存している。場所は武漢漢口の長江岸。
僕はSheeanの受けた感動を、宋子文の前半生について描く小説に採り入れたくて、2012年末にここを訪れた、が、改修中ということで中に入れなかった(それについては「重慶と武漢」に書いた)。2013年春にも行ってみた、が、未だ改修中だった。
そしてこのたび、ついに建物の中に入ることができた。「宋慶齢故居」として無料で一般公開されている。
Sheeanが慶齢に会見したと思われる部屋にも入ることができる。窓の少ない部屋で、外では晩夏の太陽が怒り狂っているのに、中はぼんやりと薄暗かった。人がめったに来ないので想像というタイムマシンに乗るのは難しくなかった。薄明かりの応接室のドアがゆっくりと開き、しなやかに現れた慶齢は、僕に向かって優しく微笑んだ。
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